東京高等裁判所 平成7年(行ケ)54号 判決 1995年11月14日
東京都豊島区南池袋2丁目22番1号
原告
三和エクステリア株式会社
同代表者代表取締役
友山誠治
東京都新宿区西新宿2丁目1番1号
原告
三和シヤッター工業株式会社
同代表者代表取締役
髙山俊隆
同両名訴訟代理人弁理士
稲葉昭治
東京都千代田区霞が関3丁目4番3号
被告
特許庁長官
清川佑二
同指定代理人
吉山保祐
同
吉野日出夫
主文
原告らの請求を棄却する。
訴訟費用は原告らの負担とする。
事実
第1 当事者の求めた裁判
1 原告ら
(1) 特許庁が平成3年審判第10455号事件について平成6年12月16日にした審決を取り消す。
(2) 訴訟費用は被告の負担とする。
2 被告
主文同旨
第2 請求の原因
1 特許庁における手続の経緯
原告らは、意匠に係る物品を「門扉」とする別紙第一図面記載の意匠(以下「本願意匠」という。)について、昭和62年7月8日、意匠登録出願(昭和62年意匠登録願第27830号)をしたところ、平成3年4月26日、拒絶査定を受けたため、同年5月24日、審判を請求した。特許庁は、上記請求を同年審判第10455号事件として審理した結果、平成6年12月16日、「本件審判の請求は、成り立たない。」とする審決をし、その謄本は、平成7年2月13日、原告らに対し送達された。
2 審決の理由の要点
(1)ア 本願意匠に係る物品及び形態は前項記載のとおりである。
イ これに対し、昭和50年7月16日に意匠登録の出願がなされた昭和50年意匠登録願第29296号の願書及び願書に添付した図面の記載によれば、意匠に係る物品を「門扉」とし、その形態を別紙第二図面に記載のとおりとした意匠(以下「引用意匠」という。)が示されている。
(2) そこで、本願意匠と引用意匠とを比較すると、
ア 両意匠は、意匠に係る物品が一致する。
イ 形態については、両意匠とも、その基本的構成態様として、左右に立設した2本の縦框の上下端部に、各1本の上框と下框を架設して、縦長矩形状の枠体を形成し、その枠体の内側に、細い縦桟と横桟を多数本設けて扉体としている点が共通する。
また、両意匠の各部の具体的構成態様についても、枠体部の各框を偏平矩形状の筒体とし、上下の枢を縦框よりやや広幅とし、縦桟と横桟の細い桟を略矩形状の筒体とするとともに、正方形に組んだ格子部を、縦桟で横桟を挟むように交差させているという点において共通する。
ウ 一方、両意匠の相違点としては、各部の具体的構成態様のうち、
(ア) 扉体の格子部の縦横の形状について、本願意匠は、縦桟7本と横桟10本により区画した縦長矩形状の扉体としたのに対し、引用意匠は、縦桟4本、横桟6本により区画したやや高さが低い縦長矩形状の扉体とした点
(イ) 格子部の横桟の形状について、本願意匠は、前後両面の上下の角部を、上下面の中央に沿って僅かに面取りし、前後方向に緩傾斜状としたのに対し、引用意匠は同部を水平面状とした点
において差異がある。
エ そこで、これらの共通点と相違点を総合して両意匠を全体として考察すると、上記の共通するとした基本的構成態様及び各部の具体的構成態様は、両意匠の形態上の特徴を最もよく表しており、意匠的まとまりを形成し、かつ、形態全体の支配的部分を占め、看者の注意を最も強く引くところであるから、類否判断を左右する要部をなすものである。
これに対し、具体的態様における上記相違点は、いずれも部分的ないしは僅かな差であり、両意匠に共通する上記特徴の中に包摂される微弱な相違といわざるをえない。すなわち、
(ア) 本願意匠が、格子部を縦桟7本、横桟10本で区画して、やや縦長の矩形状の扉体とした点については、この種の物品の分野において、縦横の各種の構成比のものがあることは、本願意匠の出願前から広く知られていることであるから、その点が、新規な態様であるとも、特徴のある態様を表しているともいえない。
(イ) 本願意匠が、格子部の横桟の形状について、前後両面の上下の角部を、上下面の中央に沿って僅かに面取りし、前後方向に緩傾斜状とした点については、格子部の桟の角部を面取りすることがこの種の物品の分野において普通になされている態様である上、その具体的形状も、細幅の桟の中央が僅かに膨らんだ程度のものであり、これもまた本願意匠のみに見られる新規な態様であるとも、特徴のある態様を表しているともいえず、引用意匠との相違は微細なものというほかはない。
オ 以上のとおり、いずれの相違点も、共通する基本的な構成態様及び具体的な態様の特徴の中に埋没する程度の微弱な相違であって、意匠の類否を左右するものではなく、本願意匠独自の特徴を形成するには至っていない。また、これらの相違点を総合しても、上記共通点を凌駕し、類否を左右するものではない。
そうすると、両意匠は、意匠に係る物品が一致し、形態上の特徴を最もよく表した意匠の要部が共通しているので、互いに類似するものというほかはない。
(3) したがって、本願意匠は、本出願日前に出願された引用意匠に類似するものであるから、意匠法9条1項の規定により、意匠登録を受けることができない。
3 審決を取り消すべき事由
「審決の理由の要点」のうち、(1)は認める、(2)ア、同イのうち、両意匠の基本的構成態様が審決認定のとおりであり、それが共通することは争わない、具体的構成態様のうち、引用意匠の上下框が縦框よりやや広幅であることは争う、同ウ(ア)は争わない、同ウ(イ)、同エ、同オ、(3)は争う。
審決は、引用意匠における上下框の態様及び本願意匠における横格子の態様の認定を誤るとともに、両意匠における門扉としての構成部材の違いや組付け態様の違いを看過し、それらにより両意匠の類否の判断を誤り、更には意匠法9条1項の解釈を誤って両意匠が類似すると判断したものであって、違法であるから取り消されるべきである(なお、両意匠の形態については別紙第三、第四図面(両意匠の部分対象意匠図)参照)。
(1) 審決における意匠の認定の誤り及び両意匠の相違点の認定の誤りについて
ア 引用意匠における上下框の認定の誤りについて
審決は、両意匠の上下框について、「縦框よりやや広幅とした点が共通する」旨を認定しているが、上下框を縦框よりやや広幅とした態様は、本願意匠に存在するのみで、引用意匠には存在しない。
すなわち、引用意匠の上下框は、縦框に対し、略2倍の広幅の態様になっているから、同意匠について「やや幅広」という概念は当たらない。したがって、審決認定のように、略2倍もある幅の違いを「やや広幅」という概念でとらえると、框組みされた四周框のバランス態様と、その空間に組み込まれた面格子との取合いなどを含めて、意匠自体の正確な外観が把握できないことになるから、審決の認定は失当である。
イ 本願意匠における横格子の態様に関する認定の誤りについて
審決は、「本願意匠の横格子に面取りした態様がある」旨を認定しているが、本願意匠には面取りした態様は存在しない。
すなわち、面取りとは、「角断面をもつ建築部材の出隅を削り、面を作ること」(「建築大辞典」株式会社彰国社発行第1版第9刷1513頁)を意味するが、本願意匠における横格子は、初めから六角形となっていて、部材の原形となる面を残し出隅を削り取って作られた面(面取り)とは、面そのものの態様が全く異なっている。
したがって、本願意匠の横格子については、「六角形の態様」と認定すべきであるにもかかわらず、審決のように「部材そのものを形成する面を面取りした面」と把握したときには、面取りされた部材の形状が特定できないばかりか、部材そのものの形状の違いが理解できないこととなって、面格子としての意匠自体の正確な外観の違いを把握できないことになるので、審決の認定は失当である。
ウ 両意匠における門扉としての構成部材の違い及び組付け態様の違いの看過について
両意匠における以下の(ア)ないし(エ)の相違点は審決において認定されていないが、これらは門扉それ自体の外観を決定づける重要な役割を有するから、これらの点を看過した審決は失当である。
(ア) 縦框の形状の違い及び框組みの結合態様の違いについて
本願意匠の左右縦框は、縦格子の横幅に対し略3倍、上下框の見付け(表面)幅に対し略同幅、上下框の厚さに対し2倍の広い横幅を持つものとされており、また、縦框の正面視左右端縁の長手方向には面取りがなされるとともに、縦框に上下框を面落ちさせて結合させる面内納まりとされている。
これに対し、引用意匠の左右の縦框は、縦格子の横幅に対し略1.7倍、上下框の見付け幅に対し2分の1、上下框の厚さに対し略同幅の、狭い横幅を持つものとされており、また、縦框の正面視左右端縁の長手方向には面取りがなく、縦框と上下框の結合方法も、縦框の内のりに上下框を段差をもって面落ちさせる突合わせ納まりとされている。
(イ) 面格子を組み付ける四周内枠の形状の違い及び内枠が四周框に組み付けられた態様の違いについて
本願意匠の左右の縦内枠においては、それを縦框に組み付けられた際に表れる出隅が丸面に面取りされ、縦内枠の横幅は縦格子と同幅となっており、縦格子が直接縦框に組み付けられた態様となっている。
これに対し、引用意匠の左右の縦内枠は、横格子を嵌合するための凹溝が縦方向に形成されていて、縦框に組み付けられた際に表れる面の出隅に面取りはなく、四周框に対して僅かな幅の周り縁となって表れる態様となっている。
(ウ) 縦格子及び横格子の形状の違い並びにその組付け態様の違いについて
本願意匠の縦格子は、出隅がすべて丸面に面取りされており、また、横格子は、断面が六角形に形成され、その見込み厚さは縦格子の横幅と略同幅で、縦格子に対し面内納まりとされている。
これに対し、引用意匠の縦格子には面取りがなく、横格子については、断面が縦長矩形に形成され、その見込み厚さは縦格子の横幅よりも幅狭とされ、縦格子に対しては大きな段差をもって面落ちさせ突き合わせた納まりとなっている。
(エ) 面格子を形成する正方形の空間の違いについて面格子における縦横の格子によって囲繞された正方形の空間について、本願意匠では、縦に11個、横に6個、合計66個が形成され、その一つの空間の一辺は上下框の幅と同一となっている。
これに対し、引用意匠では、縦に7個、横に5個、合計35個が形成されていて、その一つの空間の一辺が、上下框の幅の2倍となっている。
したがって、両意匠において、上記の一つの空間の占める面積比は、本願意匠を1とした場合、引用意匠はその2.25倍となっている。
(2) 両意匠のデザイン要素の相違について
本願意匠におけるデザイン要素と引用意匠におけるデザイン要素との対比により、両意匠の相違をみるならば、次のとおりである。
ア 框組みについて
本願意匠では、縦框を面取りし、縦框に横框を面内納まりとした上、そこに組付けられる面格子を含めて、表裏勝手違いのない配置態様としたデザイン要素を採用しているのに対し、引用意匠では、縦框に面取りがなく、縦框に横框を、大きな段差をもたせた突き合わせ納まりとし、そこに組付けられる面格子を含めて、裏側に片寄せられた表裏勝手違いのある配置態様としたデザイン要素を採用している。
イ 面格子について
本願意匠では、各縦格子に「丸面」による面取りをすることで、丸みを持たせたデザイン要素を採用し、かつ、横格子を面内納まりとすることで、六角形という特異な形状の横格子により表出される違和感を調和させながら、横格子の見付け面(表面)を縦格子に対し細く表出させ、横格子の見込み方向に形成された斜面に奥行き感を持たせ変化性を与えたデザイン要素を採用している。また、本願意匠は、四周内枠のうち、左右縦内枠が縦格子の態様となって直接框組みされたデザイン要素を採用するとともに、縦格子と横格子とで囲繞された各空間の一辺を上下框の幅と等しくして、格子に囲まれた一空間の門扉全体に占める割合を小さくした上、上下左右に合計66個の空間を一連状に並べた態様をもって、一つの意匠的纏まりとした面格子を形成している。
これに対し、引用意匠では、各縦及び横格子に何らの面取りも施しておらず、角張ったイメージをそのまま表出させ、また、横格子を縦格子に対し、大きな段差のある、重心を後ろ側に偏倚させた突き合わせた納まりとし、縦長矩形の横格子の見付け面(表面)を縦格子のそれと同幅にし、横格子の見込み方向の平面を幅狭にして奥行き感を持たせず、すべてが角張った角筒と平板との組合わせによる変化性のないデザイン要素を採用している。更に、引用意匠では、四周内枠について、縦格子の態様としてではなく、単に周り縁としてのみ機能するデザイン要素を採用するとともに、縦格子と横格子とで囲繞された各空間の一辺を上下框の幅の2倍とし、格子に囲まれた一空間の門扉全体に占める割合を大きくした上、上下左右に合計35個の空間を一連状に並べた態様をもって、一つの意匠的纏まりとした面格子を形成している。
(3) 審決における両意匠の類否判断の誤りについて
両意匠は、「縦格子と横格子を正方形に組んだ格子門扉」であるという概念的なデザイン要素が共通するのみで、門扉それ自体の外観を決定づけるために一体不可分に結び付けられたデザイン要素については、共通するものが全くないから、両意匠は類似しないものと認められる。
すなわち、格子門扉にあっては、四周の框とそこに組付けられる面格子がその外観に占める割合が最も大きく、かかる外観の違いが、一般需要者の商品購入の意思決定を左右する重要な要部となるところであるが、両意匠においては、上記(1)(2)のとおり、その面格子及び框組みの態様が決定的に異なっている。
そして、上記態様によれば、本願意匠においては、四周框を略同幅とし、面内に目通しして引き立たせた縦框によって四周框がどっしりと安定した重厚感を持っていること、丸面の縦格子と六角形の横格子との取合わせにより、違和感の中にも調和を取りつつ変化性を持たせた囲繞空間が上下左右に並べられていること、左右内枠を縦格子としたことによって、左右縦框側のそれぞれ11個ずつの縦に並んだ囲繞空間が他の中央部位に並んだ囲繞空間と同じ外観を有すること等が一体不可分に融合して、重厚感を持った門扉としての外観を呈している。
一方、引用意匠においては、左右の縦框が、上下框の見付け幅の2分の1、見込み厚さと略同幅になっていて、骨組みのような簡粗感を示していること、見付け面が同幅の縦横の格子の、角張った角筒と平板とによる変化性のない囲繞空間が上下左右に並べられていること、四周内枠を周り縁とし、左右縦内枠に形成された凹溝に横格子を嵌合したことにより、左右縦框側においてそれぞれ7個ずつ縦に並んだ囲繞空間が、他の中央部位に並んだ囲繞空間と異なる外観を有すること等が一体不可分に融合して、簡粗で変化性のない外観を呈している。
これらの外観の違いは、両意匠の基調そのものを左右する程の大きなものとして表れており、一般需要者は、これらの外観の違いから誘発される美感を明確に区別して商品購入の意思決定をすることが明らかであるから、両意匠については非類似のものとすることが正当であり、これを類似するとした審決の認定は誤りである。
(4) 意匠法9条1項の解釈の誤りについて
審決の理由中における、両意匠の具体的構成態様の相違点の(ア)及び(イ)についての認定判断((2)エ(ア)(イ))は、その内容からみて、その前提として、本願意匠が採用したデザイン要素自体の新規性や応用性を登録要件として評価したものにほかならないが、それは意匠法3条2項の問題であり、同法9条1項の規定する登録要件でないから、審決の上記類否の判断は違法であることを免れない。
すなわち、同法9条1項及びこれと同趣旨の規定である同法3条1項3号は、意匠の類否判断にあたって、デザイン要素自体の新規性や応用性を要求しているものではなく、当業者の立場からみた着想の新しさ、ないしは独創性を問題とする同条2項とは考え方を異にした規定である。
そのため、審決は、同法9条1項の規定の解釈を誤って両意匠の類否を判断した点において違法である。
第3 請求の原因に対する認否及び被告の主張
1 請求の原因1(特許庁における手続の経緯)及び同2(審決の理由の要点)の事実は認める。
2 同3(審決を取り消すべき事由)は争う。審決の認定、判断は正当であり、審決に原告ら主張の違法はない。
(1) 審決における意匠の認定の誤り及び両意匠の相違点の認定の誤りについて
ア 引用意匠における上下框の認定の誤りについて
引用意匠における縦框と上下框の幅の比率が原告ら主張の割合であることは認める。
しかしながら、框幅の構成比率の相違については、上下框の幅が広いとする点においては看者の注意を惹くとしても、その構成比率にまでは看者の注意は届かないものである。したがって、審決においては、縦框の幅が上下框の幅より大きくないことを強調するために、上下框の幅の態様につき「縦框よりやや広幅とし」と認定したが、その割合については、特に取り上げて詳細に評価する程のものもないので、取り上げなかったまでのものである。
イ 本願意匠における横格子の態様に関する認定の誤りについて
矩形状の部材の一辺や角部を削り加工する手法は普通に行われており、その手法については面取りと称されている。6つの角部を有する断面形状が六角形状となる態様のものは多数存在しており、原告らの主張によると当該部位の態様の具体性に欠ける。したがって、審決においては、当該部位に係る両意匠の外観形態の態様を、まず略矩形状筒体と位置付けた上、断面図に図示した外観形態の態様を参酌して、本願意匠の当該部位において中央が膨らんで前後に緩い傾斜面状となっていることを認定して、引用意匠と相違する視覚上の有様を「面取りした態様」と表記したまでのものである。
ウ 両意匠における門扉としての構成部材の違い及び組付け態様の違いの看過について
(ア) 縦框の形状の違い及び框組みの結合態様の違いについて
両意匠に係る扉体の各縦框の左右端の形状に原告ら主張の相違点があることは認める。
しかしながら、本願意匠にみられる面取り部は、扉の周囲を形成する偏平矩形状筒体の枠体の角部に極めて僅かに形成されたものである。加えて、この種の物品の属する分野においては、枠体の外周部に、本願意匠のような極めて細幅の面取り部を施すという程度のことは極めて普通になされていることである。そうすると、両意匠における偏平矩形状筒体の極めて僅かな角部の態様にまで、看者の注意は届かないものであり、上記面取りの有無も相違として取り上げて評価するほどのものではない。
また、框組みの結合態様について、横框の厚さを縦框の厚さより薄くして段差のある枠組みとすることや、同厚の枠組みとすることは、扉体の枠組みにおいて普通になされる態様であり、更に、両意匠における上記框組みについて、ともに段差があることには変わりがない。両意匠における縦框と横框の納まりが、面内納まりか突合わせ納まりかの違いについても、本願意匠の縦框が面取りされたものであるため、縦框と横框の納まり部にみられる相違も極めて僅かなものとなり、全く看者の注意を惹かないものである。したがって、審決においては、上記の面取りの有無と同様、これも相違として取り上げなかったものである。
(イ) 面格子を組み付ける四周内枠の形状の違い及び内枠が四周框に組み付けられた態様の違いについて
本願意匠と引用意匠における上記形状が原告ら主張のとおりであることは認める。
しかしながら、それらの形状は、別紙第一、第二図面における拡大断面図において、初めて視認される程度のものである。したがって、両意匠の形態全体としてみると、両意匠は、縦長矩形状の枠体の内側に、略矩形状筒体の細い縦桟と横桟の多数本を正方形に組み、綾桟で横桟を挟むように交差させて格子部を設けているという点においては、看者の注意を惹くとしても、原告らの主張する上記態様にまでは看者の注意は届かないものである。そうであれば、原告ら主張の上記形状については、両意匠の相違として特に取り上げて評価するほどのものではない。
(ウ) 縦格子及び横格子の形状の違い並びにその組付け態様の違いについて
上記の違いも、両意匠の形態を全体としてみた場合、(イ)と同様に、縦長矩形状の枠体の内側に細い縦桟と横桟を、多数本、正方形に組んで格子状部を設け、その格子部において、縦桟で横桟を挟むように交差させたという態様の中における、桟体の交差部という極めて限られた部位にみられる相違である。そして、その相違も、別紙第一、第二図面中の断面拡大図において初めて視認される程度のものであり、看者の注意が届くものではない。したがって、これもまた、わざわざ相違として取り上げなかったものである。
(エ) 面格子を形成する正方形の空間の違いについて
両意匠においては、正方形の空間がどの様に区画されたのかが看者の注意を惹くところであり、原告ら主張の上記の点は、全く看者の注意を惹くものとはいえない。
(2) 両意匠のデザイン要素の相違及び審決における両意匠の類否判断の誤りについて
両意匠のデザイン要素については上記(1)のとおりであり、本願意匠において相違点とされた程度のことは、この種の物品の分野にあっては誰でも簡単にできること、もしくはありふれた改変というべきものである。したがって、両意匠の類否について、審決が、上記相違点は「共通するとされた態様の特徴を凌駕し類否を左右するものではない」と判断したことは正当である。
原告らの主張は、専門家の立場から、両意匠の細部における構造上の違いを専門用語を用いて述べているにすぎないものであり、本願意匠と引用意匠との類否は、願書の記載及び願書に添付の図面に基づいて認定判断されるべきものである。
(3) 意匠法9条1項の解釈の誤りについて
審決においては、本願意匠にみられる相違点について、いずれも形態上の特徴となりえないもの、また、形態上の創作性のないものであるため、「本願の出願前から、この種の物品の分野においては」「広く知られていることであり」と認定判断したものであって、意匠法3条2項における、いわゆる創作容易であったと認定判断したものではない。
したがって、原告らの上記主張は失当である。
第4 証拠
証拠関係は、本件記録中の書証目録記載のとおりであるから、これを引用する。
理由
第1 請求の原因1(特許庁における手続の経緯)及び同2(審決の理由の要点)の各事実については当事者間に争いがない。
また、本願意匠及び引用意匠の形態がそれぞれ別紙第一図面及び第二図面に記載のとおりであること、両意匠において意匠に係る物品が一致すること並びに両意匠は、その基本的構成態様として、左右に立設した2本の縦框の上下端部に、各1本の上框と下框を架設して縦長矩形状の枠体を形成し、その枠体の内側に、細い縦桟と横桟を多数本設けて扉体としている点が共通することについても当事者間に争いがない。
第2 そこで、原告ら主張の審決の取消事由について検討する。
1(1) 成立に争いのない甲第2号証(本願意匠についての意匠登録願書)及び甲第3号証(昭和50年意匠登録願第29296号の願書に添付された図面)によると、両意匠は、審決認定のとおり、各部の具体的構成態様のうち、枠体部の各框を偏平矩形状の筒体とし、上下の框を縦框よりやや広幅とし、縦桟と横桟の細い桟を略矩形状の筒体とするとともに、正方形に組んだ格子部を、縦桟で横桟を挟むように交差させているという点において共通することが認められる。
また、両意匠の具体的構成態様のうち、扉体の格子部の縦横の形状について、本願意匠は、縦桟7本と横桟10本により区画した縦長矩形状の扉体としたのに対し、引用意匠は、縦桟4本、横桟6本により区画したやや高さが低い縦長矩形状の扉体とした点(請求の原因2(1)ウ(ア))について、審決認定のとおり相違していることは当事者間に争いがなく、更に、前出甲第2、第3号証によると、両意匠に係る扉体格子部の横桟の形状について、本願意匠は、前後両面の上下の角部を、上下面の中央に沿って、僅かに面取り状にして前後方向に向け緩傾斜状とし、その断面を別紙第一図面中におけるA-A線拡大断面図に記載のとおり六角形状としたのに対し、引用意匠は、同部を水平面状とした点(請求の原因2(1)ウ(イ))についても、審決認定のとおり相違していることが認められる。
(2) なお、上記の両意匠に共通する具体的構成態様について、原告らは、引用意匠の扉体の上下框が縦框より「やや広幅」であることを争い、また、引用意匠の上下框の広幅が縦框の約2倍であることについては当事者間に争いのないところであるが、両意匠における全体の態様及び上記広幅の程度等からみて、両意匠の上下框が、審決認定のとおり、「やや広幅」との範囲において共通するものと認めることは差し支えないものというべきである。
(3) また、原告らは、両意匠の上記相違点のうち、本願意匠の格子部の横桟の形状について、「面取り」された態様は存在しないと主張するが、その形状からみて、上記認定のとおり、上記横桟を「面取り状」とみなすことは可能というべきである。
2 更に、両意匠の具体的構成態様のうち、審決の認定に係る上記各相違点のほか、原告らが、門扉の構成部材の違い及び組付け態様の違い(請求の原因3(1)ウ)として、審決での認定以外に別に主張する各相違点に関しても、そのうち、両意匠に係る扉体の各縦框の左右端の形状(同3(1)ウ(ア))及び面格子を組み付ける四周内枠の形状(同3(1)ウ(イ))における各差異の存在については当事者間に争いがなく、また、前出甲第2及び第3号証によれば、その余の相違点についても、両意匠の各態様が原告ら主張のとおりであり、そのため、両意匠にはその主張のとおりの差異が存在することを認めることができる。
また、原告らが両意匠のデザイン要素の違い(請求の原因3(2))として主張する事由のうち、本願意匠が、表裏勝手違いのない形態とされているのに対し、引用意匠においては、縦框と上下框、縦格子と横格子の各納まり部分が若干裏側に寄せられ、その点においてやや表裏に違いのある配置態様とされていること、本願意匠が横格子の見付け面(表面)を縦格子に対し細く表出させているのに対し、引用意匠においてはそれらが同幅とされていることについても、前出甲第2及び第3号証によりこれらを認めることができる。
3 そして、原告らは、本願意匠における要部は上記の引用意匠との相違点にあり、そのため、本願意匠は引用意匠に類似しないから、これを類似するものとした審決は違法である旨を主張する。
そこで、両意匠における意匠の類否について検討するに、
(1) 本願意匠が建物への出入口に設けられる門扉についてのものであることを考慮するならば、本願意匠において、門扉としての意匠の特徴を顕著に示し、取引者、一般需要者としての看者の注意を最も引きつける意匠部分は、審決認定のとおり、その基本的構成態様に係る部分と、具体的構成態様のうち引用意匠と共通する部分にあるものと認めるのが相当である。
(2) これに対し、両意匠における前記の各相違点が本願意匠の美感に与える影響についてみるに、
ア まず、両意匠における格子部の横格子の形状について、本願意匠は、その断面を六角形の「面取り状」としたものであるが、成立に争いのない乙第1号証(中野幸一「建具のデザインと工作法」三共出版株式会社発行20、123、213頁)及び第3号証(「室内」6月号臨時増刊、株式会社工作社昭和57年6月3日発行545頁)の記載等に照らすならば、上記形状は、建具において従来普通に用いられている形状であって、格別新規なものとはいえないことが明らかであり、横格子の上下部に形成された前後への傾斜角も緩やかなものとされていることをも考慮するならば、横格子の見付け面の幅が縦格子の幅より狭いことをも含めて、その形状が、看者に対し特に強い印象を与えるものとまではいい難い。
イ また、門扉としての用途に用いられる物品に関しては、扉体の縦横の長さ及びその比率について各種のものがありうることは周知のことであり、そのため、本願意匠における面格子の縦桟と横桟の本数及びそれにより形成される正方形の空間の数と大きさも、引用意匠と比較した場合、扉体の形状に応じて構成されたものとの印象以上に格別新規な印象を与えるものとは認め難い。
ウ 更に、本願意匠の縦框、縦内枠における面取り及び格子部における縦格子部分の面取りについても、それ自体、前出乙第1号証に照らし周知の態様というべきものである上、面取りの程度も僅かなものであるため、特に目立つものとはいえなし。
エ 本願意匠におけるその他の相違点についても、前記認定のような本願意匠の態様及び意匠に係る物品が門扉として戸外に設置、使用されるものであり、看者によってその全体が観察されるものであること等をも考慮するならば、上記の相違は、いずれも意匠の細部に関わるものとして、看者に対し格別強い印象を与えるものとは解されず、前記の基本的構成態様及び具体的構成態様中の共通する部分が与える美感を凌駕するものとはいい難い。
オ そして、以上のとおりの、本願意匠における引用意匠との相違点ないしは原告ら主張のデザイン要素を総合して考察したとしても、それらが、看者に対し、本願意匠における基本的構成態様に係る部分及び具体的構成態様のうち引用意匠との共通する部分のもたらす印象を左右し、それと別異の印象を生ぜしめるものと認めることも困難である。
(3) そうすると、本願意匠の基本的構成態様は引用意匠のそれと共通するものであるから、両意匠の要部は、審決で認定のとおり、基本的構成態様に係る部分と、具体的構成態様中における引用意匠との共通部分にある一方、原告らの主張する両意匠の相違点のもたらす美感の差異は僅かなものであって、両意匠の類否の判断に影響を与えるまでのものではない。
(4) そうであれば、両意匠における美感については差異がなく、両意匠が類似するとした審決の認定判断には誤りはないものというべきである。
4 意匠法9条1項の解釈の誤りについて
原告らは、審決が、本願意匠の登録出願に対し、意匠法9条1項を根拠に拒絶したにも拘らず、引用意匠との相違点の判断について、その理由とするところは、同法3条2項の要件である本願意匠の新規性や応用性に基づくものであったとして、審決における意匠法の解釈の誤りを主張する。
しかしながら、審決が、本件において、同法9条1項に定める要件に従い、本願意匠と引用意匠との構成態様を対比し、その類否を判断して結論を下したことは、審決の理由からみて明らかであるから、原告らの上記主張は失当である。
第3 よって、審決の違法を理由にその取消しを求める原告らの請求は理由がないから、これを棄却することとし、訴訟費用の負担について行政事件訴訟法7条、民訴法89条、93条を適用して、主文のとおり判決する。
(裁判長裁判官 竹田稔 裁判官 関野杜滋子 裁判官 持本健司)
別紙第一 本願の意匠
意匠に係る物品 門扉
説明 背面図は正面図と対称にあらわれる。
<省略>
別紙第二 引用の意匠
意匠に係る物品 門扉
説明 背面図は正面図と底面図は平面図と対称にあらわれる
<省略>
別紙第三
両意匠の部分対比斜視図
<省略>
別紙第四
両意匠の面格子の対比斜視図
<省略>